Atomis 代表取締役 浅利 大介 氏「注目の素材ベンチャーを率いるCEOに聞いてみた~素材の価値、ビジネスの可能性、そして転身した理由とは?」 | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE

Atomis 代表取締役 浅利 大介 氏
「注目の素材ベンチャーを率いるCEOに聞いてみた
~素材の価値、ビジネスの可能性、そして転身した理由とは?」

J-TECH STARTUP認定企業の株式会社Atomis 代表取締役 浅利 大介氏にインタビューしました!

世界で23ものベンチャー企業が立ち上がっている注目の素材が、多孔性配位高分子。
孔を自在にデザインできるので、気体の吸脱着が可能です。
京都大学の北川先生が論文を発表して以降、ビジネス化への挑戦がはじまりました。
株式会社Atomisは、まさにその京大研究室から生まれたベンチャー。
他社にはない量産化技術をもち、多様な業界と連携を進めています。
「素材ベンチャーこそ日本に勝機がある」とベンチャーに転身した浅利さんに、その想いを伺いました。

素材ベンチャーのCEOに、40代で転身

――― 大学時代の研究とつながっているのでしょうか

はい。多孔性配位高分子というのは1997年に京都大学の北川先生が論文を発表して、世界中から注目された物質なんですね。私もそのベースとなる金属錯体の研究をしていました。当社の創業者である樋口と、COOの片岡と、皆同じ分野の研究を行っていたんです。

――― 卒業後は一般企業に就職されていますね

私はこの金属錯体を、医薬品に活かすことに興味があったんです。だから製薬会社に就職しました。ただ外資系だったのもあり、エッジがきいた研究はなかなか難しく……その後、ライフサイエンス領域に力を入れ始めていた日東電工に転職しました。

――― それがなぜ、創業期のベンチャーに参加することになったのでしょう

人がやらないことをやりたいと思ったからですね(笑)。素材系でベンチャーというのはなかなかハードルが高いんですよ。でも、日本発の特徴的なベンチャーをやりたいと思っています。大学発の強みを生かして。

――― とはいえ、創業から合流ではないですよね

創業当時も接点はありましたが、当時は興味がなかったんです。でも企業人として中堅を超えてきたのもありますかね。組織の論理が見えてきたのもあって(笑)。人生の大半を過ごす「仕事」だからこそおもしろく、という考えが強まり、最後は執筆家、エンジェル投資家でもあった(故)瀧本哲史氏からお声がけ頂き、踏ん切りがつきました。

――― そもそも幼少時代から、こういう研究分野に興味があったんですか?

本当は昆虫生態学とかやりたかったんですよ。でも親から「それはビジネスにならない」と言われて化学系にいきました。商売をやっていた父がずっと、「人のやらないことをやれば儲かる」と口にしていたんです。それが今につながっているかもしれない。大企業にいるとニッチなビジネスは認められづらいのですが、今はどんなに狭くても人がやっていないところを狙える。だから楽しいですね。

――― 過去に困難に突き当たったような場面は結構あったんですか?

たくさんありますよ。まず大学……留年しています(笑)。まあ、京大の化学系は結構普通なのですが。就職ではもっと創薬側の研究に行きたかったですし、前職でもクライアント先の都合で止まってしまった案件がたくさんあったし。

――― その一方で挑戦も繰返していらっしゃいますが、ベンチャーへの転身は中でも大きな変化ですよね

やるなら背水の陣をひかないと成功できないだろうなと思って決めました。40代でベンチャーに行くのはリスキーですが、ある種の信用力にもなるとは思います。いわゆる経営管理の実務なんかは、企業内で培われてきましたからね。

――― 開発者ではなく経営者として参画した点は、どうなんでしょうか

前職の最後の方は、新規事業開発をしていたんです。そう思うと、あんまり感覚が変わらないんです。当時は会社から予算をとってくる。今は投資家から資金を集めてくる。しかも会社だと社内承認に向けて微妙にエッジを削るんですが、今は削る必要がない。エッジを認めてくれる投資家を探せばいい。だから今の方が自由に動けるなと感じています。

素材を売るのではなく、素材の価値を売る

――― 会社の創業経緯について教えてください

2015年当時、すでに世界に7社くらい、この技術を使ったスタートアップが立ち上がっていました。創業者の樋口はその時に「やばい、このままだと海外に利益をすべて持っていかれる」と思ったんですね。それで同年に「MaSaKa-NeXT」という社名でまずは会社という器をつくりました。

――― 浅利さんはその2年後に合流ですね

そう。創業者は研究畑なので、事業は誰かにやってほしいと最初から思っていたんです。それで人探しをしている間に2年も経ってしまったという状態でした。

――― そこから事業化を考えはじめたということでしょうか

素材を売るのではなく、いかに事業にできるかと考えました。もともと私も材料の会社にいたので、ビジネス構造が見えていたんですよ。素材だけで売っても儲からない。素材が一番役に立つ場所を早く見つけて、その価値を売るようにしないといけないと、最初から思っていました。

――― そうなんですか

素材ベンチャーって投資を受けにくいんです。BtoBで素材を売るとなると、相手側に開発決定権が生じてしまうんですね。いくらいい素材であっても「戦略の変更によってこの素材使わなくなりました」と言われたら終わり。だから素材売りじゃないんです。

――― 自社でビジネスを持つべきということですね

自分で判断して、自分で前に進めるようなビジネスを構築したいと思って、一生懸命考えました。この材料はどこに役立つかなって。それで素材を扱う「マテリアル」領域に加えて、「エネルギー」と「ライフサイエンス」という領域を打ち立てました。

――― 3つの事業領域を同時に動かしていくということですか

現状では「マテリアル」領域に一番事業性があって、成長のベースになっているのは事実です。ただし、いわば3領域によるポートフォリオを組んだということですね。我々もいい年なので(笑)、リスクヘッジしながら成長する形を先につくりました。

デザイン性・多機能性・柔軟性に長けた多孔性配位高分子

――― 事業領域を1つずつ伺いたいのですが、まず「マテリアル」領域ですね。ここについては、多孔性配位高分子の特徴そのものから教えて頂けますか

この物質の一番の特徴は、デザイン性なんです。金属イオンと有機化合物を三次元で構成すると秩序だった無数の孔ができます。活性炭とかゼオライトなんかも無数の穴がある材料としては同じ構造ですね。ただ、それらは孔が固定的だったり、吸脱着の性能が弱かった、穴の数が少なかったりします。それに対して、自由にナノレベルの孔をデザインできるのが多孔性配位高分子です。

――― 孔のデザインですか!

いかにデザインするかについても、ノウハウや経験が必要ですけれどね。当社には15,000種類以上もの結晶構造学的なデータベースがあるので、それがノウハウになっています。お客様から相談がくると、データベースから効率よくスクリーニングして、特性に合わせた開発を進められるんです。

――― なるほど

あと、この材料をつくるのって、昔はすごくお金がかかったんですよ。1kgあたり、数千万円かかるくらいのコストでした。そこから世界中のベンチャーが創意工夫して、数十万円から数百万円くらいになってきたのが数年前。さらに我々は、それを1万円くらいに下げられる合成法を編み出しました。それも当社のコア技術ですね。

――― 製造方法が違うんですか?

他社では液相合成法という方法なのですが、我々は固相合成法という独自技術を確立しました。これだと、他社で必要な有機溶媒をあまり使わないし、熱や圧力も不要。環境にも優しいし、狭い面積で連続的に大量につくれて、安価に量産化できるようになるんです。

――― 劇的な価格差ですね!

多孔性配位高分子材料の2つめの特徴は、孔の中で合成したり分離したりできる点です。これがいろんなことに応用できるので、実はほぼすべての業界から依頼を受けています。食品、医薬品、環境系、半導体、自動車、電機、化学、あと宇宙開発のメーカーなんかもありますね。

――― すごいですね…

この材料そのものは「カーボンリサイクル」、すなわちCO2を有益な性質に変えることもできます。それを事業にしているベンチャーもありますよ。ただ我々は、そこに絞ることはしませんでした。それよりも材料や製法を広く提供し、いろんなところで製品化されることを望んでいます。

――― その方がいろんな付き合いができるということですね

そうですね。あと、デザイン性・多機能性に加えて、柔軟性という特徴もこの物質にはあります。スポンジのように動いて吸脱着できるので、何かを分離する時なんかに便利で……たとえばシェールガスの分離に使うといったことで、開発に使われています。

――― 海外ベンチャーたちとは、関係性がありますか?

今はそんなにないですが、今後補完しあうことがあるかもしれません。ちなみに、日本って素材ベンチャーがやりやすい環境だと思うんです。化学や素材関連のメーカーが多いだけでなく、用途展開できるメーカー数の非常に多い。つまりお客さんが多いと言えます。だから、海外ベンチャーが日本にくることもありますよ。

IoT化したおしゃれなガスボンベがあっていい

――― 次に、エネルギー領域について教えてください。「次世代型ガスボンベ」とはどういうものなのでしょう?

いろんなビジネスアイデアを考えたのですが……どうせなら「大企業ではできないこと」をやろうと思って。そうすると、1つはまったくの新領域、もう1つは既得権益でガチガチになっているような領域じゃないかと考えました。とはいえまったくの新領域はなかなか難しいですからね。旧来型の業界を対象に考えました。

――― なかなか業界外の人は手を出せないところですね

しきたりが多い業界に参入できることこそ、スタートアップの面白さだと思うんですよ。そこで注目したのが、高圧ガス業界です。ガスボンベの形ってみんな目に浮かぶと思いますが、基本的に100年間変わっていないんです。

――― 確かに……。

もっとコンパクトなサイズでたくさんガスが入り、しかももっとおしゃれにできるはずだ、ということでやり始めました。あと、メーターで在庫管理するのもずっと同じですよね。そこにIoTを持ち込んで、遠隔管理できるようにしました。それを次世代高圧ガス容器CubiTan®と言っています。

――― もう製品化も間近ですか?

本年度末から小規模実証実験を開始する予定です。。法規制が多く、中々実証実験は簡単にはできないんです。もちろん容器開発、認可取得にも結構お金もかかるので……それは誰も乗り出さないですよね。だからこそ根本的な新しさを持ち込めるはずだと思って、取り組んでいるところです。

――― 許認可面もあるということですね

IoTを装着したガスボンベ容器は、実証試験実施に向けて現在認可申請中です。ただこれはあくまでβ版で、肝心のガスをコンパクトにできるガス吸着材(多孔性配位高分子)は搭載されていません。これまでガス吸着材という概念がなかったので、法律上に項目がないんです。経済産業省にかけあって、一緒に新たなレギュレーション整備もしていかないといけない状況で。そこには少し時間がかかりそうです。

――― 先々はどういう展望をお持ちなのでしょうか

気体の持ち運びができるのが特徴なので……市場サイズを考えると、エネルギーに使うメタンや水素の持ち運びに使えないかと考えています。たとえばバイオマス原料から生じるメタンガスって、大半が地産地消でしか使えていないんです。でもこの容器があれば遠方に運べるようになりますからね。

――― そういう用途に広がるんですね。あとは、ライフサイエンス領域で考えている事業についても教えていただけますか?

これはまだ研究段階です。たとえば多孔性高配分子は核酸医薬のデリバリー(DDS)に向いているんですよ。論文も近年増えています。一方我々としては、ガスを閉じ込めることができる技術なので、免疫コントロールに使えないかという発想を持っていました。

――― ご自身の関心領域でもあるわけですね

ただ、バイオベンチャーになりたいわけではないんです。だから、この技術を使ってデータを蓄積し、それをビジネス化できたらと思っています。薬効や安全性を示すデータですね。今それを、京大の医学部と一緒に研究しています。

気体を自在に扱える、未来社会に欠かせない材料

――― 様々な企業から相談が来ると思うのですが、どういった形で拡大したいとお考えなのでしょう

とにかくまず知ってほしいのは、マテリアル領域ですね。材料を設計・販売する形のビジネスなので、各社の興味にあわせて様々な製品化に貢献できると思います。ここを成長基盤とし、あとの2領域はまず自力で、ビジネスを確立していきます。

――― 多孔性配位高分子という材料は、未来の社会にとってどんな意義が考えられますか?

持続可能な社会にとって必要な材料だと思っています。たとえば宇宙開発。気温が低いところでの吸着性がとても高いので、宇宙でコロニーなんかをつくるときのガス貯蔵には欠かせないでしょうね。地球上でも、二酸化炭素を吸って有益なものに変えられるなど、いろんな役割を果たせると思います。

――― なるほど

人類はこれまで、固体の石炭、そして液体の石油というエネルギーを扱ってきました。加えて、今まではコントロールできなかった気体が扱えるようになった。新たなエネルギー源、物質源をつくることもできます。そう考えると、この材料が持つ小さな孔の機能には、すごく多くの可能性が秘められていますよ。

――― 興味を持たれた方向けにぜひ、メッセージをお願いします

空気中に漂っている見えないガスをコントロールして新しい価値を生み出せるというのが、私たちの技術です。いろいろなことができるし、将来はもっと不可欠な技術になるでしょう。当社の技術が、様々な新ビジネスの立ち上げに貢献できたらと思っています。

――― ありがとうございました

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