#4 アムンセンとスコットと不確実性 ー 非対称を理解し、時間を味方につける | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE
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#4 アムンセンとスコットと不確実性 ー 非対称を理解し、時間を味方につける

「本コラムは昨年12/18に開催され好評を博したJMA GARAGE セミナー「【グローバルM&Aを考える視点】アムンセンとスコットから”不確実な時代のビジネス”を学ぶ」のエッセンスをわかりやすく解説したコラムです。5回に分けてお届けいたします。

大企業とスタートアップとの差はいっぱいあるが、最も埋め難いのは「時間に対する感覚」の違いだ。大半の大企業は鈍く、悠長というか鷹揚である。スピード感に欠けるので、どうしても顧客や市場に対するアンテナが疎かになり、開発コストがかさむ。スタートアップ企業にとっては「資金が尽きる=倒産」なので常にスピード重視の緊張感の連続だが、習い性で年次事業計画として扱おうとさえする。コア事業に最適化したプロセスは、成長事業=次世代コア事業の戦略投資プロジェクトでは阻害要因でしかない。Time to Market(スピード)を最重要視しなければ、失敗の憂き目にあうか、成功しても多大な投資ゆえの非効率に陥っているのが今の光景だ。

公平に与えられた時間がビジネスを支配している

時間は平等に与えられるもので、自ら生み出せず、貯めることもできない。何もしなくても消え去ってしまう。そして時間の価値というものは相対的で、それぞれ異なる。

算数問題として市場規模を考えてみると、4年半から6年買換えになれば25%縮小する。生産性ではどうだろうか。4週間に3台ではなく3週間に4台売れば売上は1.8倍に増え、人件費/販売費は44%も削減できる。8週間かかる仕事を6週間でこなせば、コストは25%節約できる。効率性が全く違う。

アムンセン隊は往路55日、復路はさらに加速し43日で完走している。スコット隊は往路だけで77日かかり、復路72日めでスコットの命運が尽きた。例年並み以上に恵まれていた天候が崩れ、マイナス35度〜45度の寒気が襲った。マイナス30℃までが普通に作業できる限界で、これを下回ると一気に動作が緩慢になる。だが隊員を喪い生死をさまよっていた頃、ライバルは1ヶ月前も前に帰還を果たして南極から出航していた。時間をかければ南極の短い夏も終わり、厳しい季節が到来する。犬ぞりの方が、人力で引くより断然早い。これらは不運ではない。スコット隊は体力消耗も激しく、乏しい食糧、凍傷・燃料不足などで追い詰められていった。

同じエネルギーなら軽い方が速度はあがり、早く到着できる。明日の天気の方が1ヶ月先の天気より当てやすい。Time to Marketという意味は、ビジネスであれば時間あたりのコストを下げ、早期の学習によって無駄なコスト発生を回避し、先行者利益を刈り取り、なおかつ支配的シェアを早期に確立することで優位に立てるということだ。つまり時間をうまく使うことでリスクを下げ、競争優位性を生むのだ。

アップサイド/ダウンサイドの非対称を理解する

戦略の意思決定は難しい。ゴールまでの戦略ストーリーがイメージできるようになったら、戦略投資の7〜8割は終わったと言われるくらい、準備段階は重要なものだ。そして身銭を切らなければ(真剣にリソースを投入しなければ)、身に付かない。つまり、戦略投資はダウンサイドから始まる。このアップサイド、ダウンサイドを時間経過の中であらわれる。

自らターゲット市場・顧客のリアルな姿を理解するのにコストがかかる。プロジェクトが組成されれば、活動費用もかかる。外部専門家を雇用すればそれも持ち出しだ。何より大きいダウンサイドは、プレミアム(買収上乗せ価格)だろう。クロージングとは、ようやくダウンサイドに底を打った(はず)タイミングという意味だ。アップサイドに向かう転換点だ。いよいよ事業会社としての醍醐味発揮である。だから、最初からこの活動は計画的に仕込まれていなければならないし、PMIのための買収監査は「できたらいいね」ではなく「必須」になる。

そして大切なのは、ダウンサイドは自分達で設定できる(有限だ)であるのに比べ、アップサイドは無限であることだ。この非対称性こそ戦略投資の面白さである。ある時セミナーで「ティザーを見て少しでも食指が動くならNDAを締結してどんどん情報メモランダムを入手、読んだ方がいいですよ」と話したら、ご質問をいただいた。ダウンサイドは守秘義務と読む時間、アップサイドは当該企業や市場に関する情報入手という無限の価値を秘めたもの、つまり非対称だと思うのだ(欧米企業は日本以上に積極的にやっている)。開示情報にしてもプロセスやスケジュール決定にしても、売り手と買い手とはまったくの非対称の環境である。

必ず問題は発生する。問題発生はダウンサイドに働くので、即時に解決しなければ、悪い方向に広がる可能性がある。交渉ごとのように、機を伺うことも必要なケースはあるので全て即決すべきとはならないが、今決めるべきなのか、それとも先に決めた方がいいのか、どう状況は変化するのか、その時の選択肢はどうなのか。頭の中にダウンサイド・アップサイドのイメージを思い浮かべてみるだけで冷静に判断できるようになる。

戦略投資は非対称

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Masatsugu Shibuno

代表取締役クロスパシフィック・インテリジェンス
岡山市生まれ。事業会社で約20年にわたって戦略投資にかかわり、M&A、PMI、米国事業再生、日米での新規事業開発、グローバル戦略マネジメントなどを担当。元リコー理事、リコーアメリカズホールディングス社長。 2018年2月、株式会社クロスパシフィック・インテリジェンスを日米4名で共同創業、代表取締役に就任。日本の事業会社に「Best-suited Growth」を届ける。 北米市場のグリーンフィールド調査、クロスボーダーM&AとPMIコンサルなどがメイン。 2019年10月に米国事務所を法人化(Cross Pacific Intelligence, Inc.)

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