#3 アムンセンとスコットと不確実性 ー 「不確実性」を前提としたプラン | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE
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#3 アムンセンとスコットと不確実性 ー 「不確実性」を前提としたプラン

「本コラムは昨年12/18に開催され好評を博したJMA GARAGE セミナー「【グローバルM&Aを考える視点】アムンセンとスコットから”不確実な時代のビジネス”を学ぶ」のエッセンスをわかりやすく解説したコラムです。5回に分けてお届けいたします。

どうせ未来は「不確実」なのだから計画など不要という極端な考えに走ったり、「数打てば当たる」とばかりに少額投資を連発する人がいる。後者において、似た者(同じ領域かつ同じステージ)に投資しているなら「全部の卵をひとつのカゴに入れるな」という分散投資の考えを無視した、ギャンブルに身を任せていることになる。まさかマンボウのように3億個も卵を産めば一匹くらいは生き残るというわけにもいかないだろう。

ゴールがあるから計画が意味を持つ

さて、アムンセンの計画について考えてみると、スコットとは比較にならないほど入念に準備を仕込んでいることがわかる。計画を立てる目的は、ゴールに到達するためだ。あらゆるプランはなぜ?何を?という問いから始まる。図表3のように必要なプロセスを考え、行動計画にまで落としていく作業になる。経験は計画のディテールに彩りを与え、複数の選択肢を準備させる。

事実、南極点レースの前までに、1) 南極海で流氷に閉じ込められて越冬した航海、2) 北極海からベーリング海峡に抜ける「北西航路」横断の成功(当時はアジアと欧州を最短距離で結ぶ航路として期待されていた)、3) カナダ北部での2度の越冬(エスキモーから学ぶ)、4) それに続くアラスカ沖で流氷に閉じ込められて3度目の越冬、と大きいものだけでも4回の過酷な経験を重ねている。ビジネスモデルキャンバスが、新たな「気づき」を得て書き換えられるのと同じく、アムンセンの中でも知識がアップグレードされていっただろう。アムンセンのゴールは南極点に到達して還ってくること。注意深い計画、輸送手段や食糧を十分に試し、あらゆる教訓として生かし、常に冷静沈着で、効率的かつ感情に囚われない態度で、目的を達成することにフォーカスしている。

戦略投資は大伽藍をつくりあげるストーリー

M&Aプロセスのテンプレート、チェックリスト、マニュアルなどを作ってみても、66%〜75%は失敗に終わる(McKinsey調査,2010年)。誰だって失敗したくないから、ますますリスク回避のマインドセットになり、精緻な調査・分析に基く完璧なプラン作りへ突き進ませてしまう。これはパラドキシカルな問題だ。戦略はサイエンスではないと分かっても、科学的に正しい回答を求めたくなる(教室で学んだ悪い習慣のひとつだ)。

プランは必要だ。それがなければプロジェクトはスタートしない。戦略ストーリーも必須だ。戦略投資が目指すのは成長性・収益性の向上であり、そこには時間の流れがある。だが台本をミスなくなぞれば満点というものでもない。アムンセンが選んだ走路は前人未到だし、太陽や星が見えなければ自分達の位置がわからない。風に飛ばされた氷粒は針のように刺さり、強い紫外線の無臭の世界だ。突然に出現した新たな状況に対し、瞬時に決断しなければならない。十分な練習量をこなせば自信もつくし、肝もすわる。

建造物を作るには①発案・調査・企画・基本構想→②基本設計→③実施設計→④資材や職人の調達→⑤施工・監理→⑥竣工・引き渡し→⑦利用・維持となる。投資銀行持ち込みの戦略投資案件では、③から入って⑥でサクセスとなる。プロジェクトの昂揚感は⑥でピークを迎える。いい気分だ。だが、事業会社にとってはそこまでは準備作業であって、⑦から本来の始まり(シナジーと価値創造)というのがストーリーのはずだ。

斑鳩の古寺は高麗や唐からの技術を輸入しながら、礎石を据え、長く庇を設けるなどの日本独自の工夫をこらし、柔構造の設計とすることで、雨量や地震の多い自分達の風土に適合させた。1400年超の歳月を経て⑦の状態にあるのは、①から②の活動があってこそだ。つまり戦略投資とは、規格品ではなくエコシステムの中でダイナミックに変化していく生き物を扱うプロセスということになる。

そしてもうひとつ。戦略投資は継続的な活動で、1社だけで終わらない。そして順番がある。まず最初にそれなりのサイズのプラットフォーム企業買収をし、それからロールアップするのが王道で、この逆ではない。

私は薬師寺を思い出す。かつて国宝の東塔(730)と重要文化財の東院堂(1285)が残るだけで、荒廃し「蒼然たる落魄の有様」であった。大和は「滅びの美」という入江泰吉や亀井勝一郎らの美意識が支配的で、県の風地委員会や大学教授も、再建には猛反対だった。だが、もし法相宗の総本山としての精神を見出すなら、伽藍再現は当然だろう。1976年の金堂(当時の薬師寺の収入の10倍の建築費用)を皮切りに、西塔・中門・大講堂・食堂・西僧坊・東僧坊などが再建された。深刻な資金難もさることながら、図面も何も残っておらず、わずかな記録を手探りで読み解き、1000年持つ建造物をたてなければならない。戦略投資とは、大伽藍を作ることだ。その完成イメージをくっきり浮かべ、順番を決めて、作りあげていく旅なのだと思うがどうだろうか。

不確実性を前提としたプラン

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Masatsugu Shibuno

代表取締役クロスパシフィック・インテリジェンス
岡山市生まれ。事業会社で約20年にわたって戦略投資にかかわり、M&A、PMI、米国事業再生、日米での新規事業開発、グローバル戦略マネジメントなどを担当。元リコー理事、リコーアメリカズホールディングス社長。 2018年2月、株式会社クロスパシフィック・インテリジェンスを日米4名で共同創業、代表取締役に就任。日本の事業会社に「Best-suited Growth」を届ける。 北米市場のグリーンフィールド調査、クロスボーダーM&AとPMIコンサルなどがメイン。 2019年10月に米国事務所を法人化(Cross Pacific Intelligence, Inc.)

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