#1 アムンセンとスコットと不確実性 ー 過去は確実・未来は不確実 | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE
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#1 アムンセンとスコットと不確実性 ー 過去は確実・未来は不確実

「本コラムは昨年12/18に開催され好評を博したJMA GARAGE セミナー「【グローバルM&Aを考える視点】アムンセンとスコットから”不確実な時代のビジネス”を学ぶ」のエッセンスをわかりやすく解説したコラムです。5回に分けてお届けいたします。

ロアール・アムンセン(ノルウェー人)は初めて南極点に到達した人物として教科書にも載った。かたやロバート・F・スコット(英国人)はあまり日本で知られていない。南極に米国が持つのは「アムンセン=スコット基地」で、同時期にレースを競ったこの2人の英雄から名付けられている。だが実際のところ、このライバルの物語はまったく対照的だ。ともに五人が南極点に到達したのは同じだが、アムンセン隊が1ヶ月以上早く名誉を勝ちとって全員が元気に生還したのに比べ、スコット隊は帰路に全員遭難死亡という運命をたどった。

違うのは結末だけではない。準備期間、情報収集と入念なシミュレーション、チーム組成と個の尊重、リーダーシップ、兵站と機動力など、見事なまでに異なっている。次回以降、図表1の「4つの違い」に括って考えてみたいが、多くの選択肢を先に残し、致命的なミスを回避し、日々着実に成功への歩みを進めるやり方は、ビジネスに通じる。明治44年〜45年のことだが、今なお学びがある。というわけでこのコラムを始めたい。

アムンセンの勝利・スコットの敗北

ビジネスジャーナリズムは「変化が急速で未来を見通せない時代だ」とあおり、人々を神経質にさせる。だがどんな時代だって将来に関しては無知だし、正確に未来を描写できたことはなかった。歴史の面白さはそこにあるし、名だたる経済学者もいっぱい間違った。だから言った通りだろう?という大半は後知恵バイアスだ。完璧に将来はこうなると断言するのは思い上がりというもので、事実に対して謙虚でいたいものだ。

今回は、前人未到の冒険の考察になる。地図もなく地形や気象も不明。これほどの情報不足もあるまい。経緯儀と六分儀を頼りに往復3000km(石垣島から稚内まで)を、3〜4ヶ月かけて走破する長距離レースだ。南極点は標高2835mで最高峰は4810mもあり(北極より寒い)、氷河ではクレバスが待ち受け、悪天候ではマイナス60〜80℃まで下がる。与えられた環境は平等なのに、生死を分けるほどの結末の違いが生まれたのだ。

アムンセンはこう言っている「あらゆる状況を想定して準備しておけば勝利が訪れる、これを人々は幸運と呼ぶ。準備を怠れば失敗は確実だ、これを人々は不運と呼ぶ」。一方のスコットは最期の日誌に「われわれの不幸は組織の欠陥ではなく、ことごとく付きまとった不運にあった」と書いた。それぞれの言い分はあるだろうし、偶然もいたずらする。だが事実を知れば、違った見方ができる。致命的なミスを回避し、日々成功への道程を進めるやり方があるのだ。将来は予測できないが「不確実性」につよいシステムは存在する。運・不運の問題ではないと知って初めて、ビジネスの先行きの不透明さを嘆く前に、今やるべきことがあるのに気づく。

経営陣の仕事は「不確実性」つまり「戦略」を扱うこと

今のビジネスは、環境変化のスピードが早く(流動性)、未来は予測できず(不確実性)、大量の情報があっても判断できず(複雑性)、どう意味を解釈したらいいのかわからない(曖昧性)。これがVUCAワールドだが(大して意味のない流行り言葉だ)、この中でAIが得意なのは「複雑性」だ。AIが動くには膨大なデータを食べなくてはならない。保険ビジネスが成立するのは豊富なデータを参照できるためで、同様の状況が繰り返されるという前提に立っている。シンギュラリティは未来の姿だとしても、そしてAI/Big Dataが「過去を予測する」のが得意だとしても、「未来を予測できる」と考えるのは間違っている。そこにはデータがないのだから。

以前のコラムで書いたように戦略にはレイヤーがあり、経営者および経営スタッフの最も重要な仕事は「大戦略」から上位を扱うことだ。マネジメントの対象は「不確実性」であり、長期であるため予測は難しく、情報量は不十分、だがミスは致命的という特徴を持つ。組織階層が低くなれば「コミットメント」を求められ、短期であるため予測しやすく、情報量も十分にあることが多く(AIに代替されやすい)、ミスしても修復可能なことが多い。戦略はサイエンスにはなり得ず、本質的にヒューリスティックなのである。だがヒューリスティックの巨人であり「実務に役立つ」P.F.ドラッカーは、学会から疎んじられた。どうやら経営学者は「役に立たない」と言われようが、サイエンスを目指している人たちのようである。

話を戻そう。いいこともある。過去は変えられないが、未来は作ることができるのだ。それは自らベストプラクティスを参照して解決するようなものではなく、自らが変わっていくことで解決するような、創造的なプロセスである。

アムンセンとスコット 対照的な4つの側面

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Masatsugu Shibuno

Masatsugu Shibuno

代表取締役クロスパシフィック・インテリジェンス
岡山市生まれ。事業会社で約20年にわたって戦略投資にかかわり、M&A、PMI、米国事業再生、日米での新規事業開発、グローバル戦略マネジメントなどを担当。元リコー理事、リコーアメリカズホールディングス社長。 2018年2月、株式会社クロスパシフィック・インテリジェンスを日米4名で共同創業、代表取締役に就任。日本の事業会社に「Best-suited Growth」を届ける。 北米市場のグリーンフィールド調査、クロスボーダーM&AとPMIコンサルなどがメイン。 2019年10月に米国事務所を法人化(Cross Pacific Intelligence, Inc.)
Masatsugu Shibuno

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