イノベーション組織へ、日本企業の挑戦|シリコンバレー最新動向 その6 | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE

イノベーション組織へ、日本企業の挑戦|
シリコンバレー最新動向 その6

コロナ禍で事業の立て直し、採用の見直しを迫られているなかで、人材戦略はどうあるべきなのか。
昨年、シリコンバレーに長期滞在し、「シリコンバレーイノベーションプログラムの受講とともに、HR テックの年次カンファレンスに参加した、日本能率協会の平井亜矢子がシリコンバレーのイノベーションを生み出すエコシステムの動向とカンファレンスをレポートする。

組織を変えることの難しさを理解し、新しいビジネスのために組織を一から構築するという試みを行う日本企業もある。

三井物産が手掛ける「Moon Creative Lab.」は同社がこれまでの既存の商社の事業の枠組みとは異なるまったく新しいビジネスを創出するために設立した新会社だ。同社の日本人駐在員の方は「これまでに本社の開発部門の中で、さまざまな新規ビジネス開発にチャレンジしてきたが、やはり既存事業や組織という枠組みを抜け出すことが難しかった。そこで、組織、人材も含めて本社から独立させ、まったく異なるマネジメント体制を敷いている」と述べていた。

大企業がダイナミックに組織を変えていくことは難しい。特に事業ポートフォリオのなかで既存事業の配分が大きい場合、新規事業に引っ張られて人材や組織を無理に転換していくことはリスクが大きい。また時間もかかってしまうだろう。そこで同社のように、新規事業開発を既存の組織体から切り離すということは一つの効果的な施策である。マネジメントのあり方がまったく異なるものを併存させるのではなく、それぞれの事業戦略に基づいた組織・人材づくりを別々に行うという企業はこれからも増えてくるであろう。新規事業の活動が少しずつ安定した段階で、企業全体のシナジーをデザインしてもよい。日本企業は事業プロセスだけでなく、企業形態や組織形態のあり方についても少しずつトライ&エラーをしていくことが求められる。

ここまで HR Tech から見えてきたアメリカ企業の人材・組織課題とシリコンバレーエコシステムから見えてきた、これからの日本企業の人材・組織づくりにおける視点を考察してきた。簡潔にまとめると、以下のようになる。

【HR Tech から見えたアメリカ企業の人材・組織課題】
・ 人材獲得競争激化の中で優秀人材の惹きつけ、人材の潜在的パフォーマンス向上を目的として、アメリカ企業は Employee Experience 向上のための施策を講じている。
・ その EX 施策を支えるツールとして最新のテクノロジーが活用されている。この分野のマーケットは、これからの労働環境変化を背景に今後さらに伸びる可能性がある。

【シリコンバレーエコシステムから見えてきたイノベーションを起こす人材・組織課題】
・ 課題意識とそれを解決したいという考えを持っている、アイデアを試しながら小さくても前進させる姿勢がある、協働のための共有の意識がある人材がイノベーションを起こす
・ 新規ビジネスのねらいを定めながらも、イノベーション人材が稼働しやすい自由で柔軟な環境を整えている組織
・ さまざまなアイデアを交差するためのダイバーシティを前提としたシェア文化が根づいている組織

COVID-19 の影響で日本でも外出自粛規制が敷かれた時期にシリコンバレーの日本人駐在員の方に現地の状況を伺ってみたところ、シリコンバレーはすでに上記のような人材・組織マネジメントのインフラが整っていたこともあり、多少の遜色はありながらも事業活動を継続することができたようだ。

一方日本はどうだろう。社員の価値観の多様化に合わせて、働き方の柔軟性とそれに呼応するマネジメントは数年前から課題として挙げられていたが、転換することは難しかった。皮肉にも COVID-19 が日本の組織の変革を促すきっかけとなったことは否めない。そして今回の事態は社員一人ひとりの意識にも大きな変化をもたらした。これまで企業・組織という物理的・心理的な枠の中で仕事をしていたところから、リモートでの仕事を経験したことで、社員の価値観や展望というものは少しずつ変わってきている。すでに将来を見据えて自律的な働き方を模索する、在宅の仕事の効率性に気づき転職をするというケースが増えている。数年後には組織と人材の関係性も現状と変わったものになるかもしれない。そのような事態になったとき、日本企業は人材の心をつなぎ留めておくことができるのか、また多様な価値観を持った人材に選ばれる企業になれるのか。今回の EXの視点はまさにこのような問いに対する一つの方向性を明示しているのではないだろうか。

今まさに企業が持続的な成長をするためのマネジメントの転換期を迎えている。これまでさまざまなジレンマを抱えながら模索してきた人事部・人事担当者にとってはこれは経営層、企業全体を巻き込んで前進する好機である。今一度組織と人材の課題の本質に立ち返り、変動する環境でも成長できる組織と人材づくりを行ってほしい。

公開コラムはこちら

その1:コロナウイルスがシリコンバレーにもたらしたもの|シリコンバレー最新動向 その1
その2:ベイエリアの人材マネジメント|シリコンバレー最新動向 その2
その3:HRテック企業が模索する人事課題解決への道|シリコンバレー最新動向 その3
その4:テクノロジーの進化がEXに与える恩恵|シリコンバレー最新動向 その4
その5:「新事業開発のための人づくり・組織づくり」のヒント|シリコンバレー最新動向 その5
その6:イノベーション組織へ、日本企業の挑戦|シリコンバレー最新動向 その6(本コラム)

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