「新事業開発のための人づくり・組織づくり」のヒント|シリコンバレー最新動向 その5 | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE
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「新事業開発のための人づくり・組織づくり」のヒント|
シリコンバレー最新動向 その5

コロナ禍で事業の立て直し、採用の見直しを迫られているなかで、人材戦略はどうあるべきなのか。
昨年、シリコンバレーに長期滞在し、「シリコンバレーイノベーションプログラムの受講とともに、HR テックの年次カンファレンスに参加した、日本能率協会の平井亜矢子がシリコンバレーのイノベーションを生み出すエコシステムの動向とカンファレンスをレポートする。

今回の視察ではアメリカ企業の視察だけでなく、現地の投資家やベンチャー企業を支援しているコンサルタント、日本人駐在員の方に対し、イノベーションにおける日本企業の課題についてもヒアリングを行った。そこで言及された課題は人材や組織に関するものが非常に多かった。ここからは、イノベーションを生み出す人材・組織という観点から日本企業の課題解決のヒントを探っていく。

(1)現地日本人駐在員の苦悩

ベイエリアに進出している日本企業は年々増加し、2018 年には 913 社にまで増加した。その中には新規ビジネス開発を狙って進出している企業も多く、日系メーカーのオープンイノベーション拠点も加速度的に増加している。しかしアメリカの先進企業と連携しながら事業開発にあたっている日本人駐在員は、日々さまざまな課題に直面しており、狙った成果が得られている企業はまだ多くない。

その原因を探るべく日本企業の現地駐在社員にインタビューを試みたところ、彼らからは日本本社の支援に対する焦燥感が聞かれた。彼らが問題として挙げたのは、「人材・組織」の問題であった。例えば配属される人材について言えば、日本企業は現地に駐在員を派遣する際、「語学力」「グローバルビジネス経験」「既存事業における高い実績」といった点を考慮して人材を選定することがある。しかし、イノベーションを起こす人材というのは、既存の事業の実績や語学力などのスキルだけで測ることはできない。また現地ベンチャー企業と連携して新しい研究開発に取り組もうとしても、現地のビジネス環境を理解していない日本本社側との内部交渉が複雑であったり、遅かったりと現地社員の業務を妨げてしまうことがある。

日本企業の現地駐在員は、現地ベンチャー企業と日本本社のマネジメントの間に挟まれながら、日本本社側の意思決定の遅さや稟議などの多さにより、プロジェクトを進めたくても進められず、中国企業をはじめとした海外競合相手に先手を取られてしまうということが少なくないのである。

(2)イノベーションを起こす人材要件

イノベーションを生む人材とはどういう人材か、イノベーションを育む組織はどのような組織なのか、シリコンバレーのスタートアップ企業の人材や組織から見えてきた中で重要な要素を、3つの視点から記述しておきたい。

解決したい課題を持っている
名だたる起業家や現地で新ビジネスを立ち上げた大手企業のイノベーション人材の特性の一つとして挙げられるのが、「解決したい課題を持っている」という点である。そしてこれらの課題は他人のアイデアから得られたものや、組織から与えられたものではなく、個人的な思いや過去の経験に基づいたものが多いという点が肝心だ。

オンデマンドフードデリバリーサービスの DoorDash 設立者の Tony Xu 氏は自身の母が飲食店で苦労して働いている姿を幼少期に見ていたことから、地域に根差した飲食店やサービス店の発展に貢献したいという思いを持った。その過去の思いが起点となり、飲食店のニーズを探り出し、現在の地域の小規模な飲食店を支援するというビジネス形態の最初のアイデアを生み出した。このように自分自身の過去の経験に基づく課題意識から起業したという起業家は現地では少なくない。一つでも課題感を持つことで、目前にあるものを当然として受け入れていくのではなく、課題を見出していく視点と思考が働く。シリコンバレーにおいても「デザイン思考」のセミナーは人気を博していたが、デザイン思考は顧客課題を見出す手法の一つでしかない。そもそもの現状対する正しいクリティカル思考を持つには、自分自身が苦労した経験、不便だと感じた経験など個人の感情が発端となることが多い。個人の思いや過去の経験に根差した課題を持っているかどうかはイノベーション人材にとって何よりも重要な特性ではないかと考えられる。

すぐに行動に移すことができる
2つ目に共通する特性は発案したアイデアをどんなに小さくても、すぐに実行に移すことができるという点である。訪問した Google Ventures では、Uber や Slack といった誰もが知るユニコーン企業が最初にサービスを発案した際の貴重なノートやメモが展示されていた。それは事業開発案というにはあまりに稚拙な内容ではあったが、彼らはこの小さなメモを元にプロトタイプを作成し、近しいコミュニティにサービスを展開し、フィードバックを得ながら改善を繰り返すことで少しずつ成功を収めていった。開発当初から市場規模やかかるコストなどを計算して取りやめるのではなく、失敗を恐れずに実際の行動に移すという姿勢がイノベーション人材とそうでない人材を分ける大きな要素になっているようだ。

協働を前提としている
多くの起業家はどんなに優れたテクノロジーやアイデアを持っていてもそれだけではビジネスを生み出すことはできない。戦略立案、資金、マーケティングといったそれぞれに長けた人材や機関が支援を行うことで企業とそのビジネスを成長させている。特にシリコンバレーではそれが生態系(エコシステム)という形を成し、プロフェッショナル同士の関係性が確立されている。個人一人でビジネスを簡潔させることが難しいため、どの起業家においても協働することを前提として活動している。そのため彼らは自ずと自己開示を行い、自身の強みや価値を磨き、その価値を他者へ提供している。時にその価値提供は無償で与える場合もあるが、自身のスキルやアイデアを共有していく中から、支援者を得たり、新しいアイデアを得ることを可能としているため、彼らは無償提供していくことを惜しむどころか、積極的に共有化を図り繋がりを広げている。

(3)イノベーション、新規ビジネスを育む企業・組織

① 新規事業の定義とそれに沿った人材と仕組み
現地で M&A を支援する監査法人やシリコンバレー駐在の日本企業のプレゼンテーションを聞く機会を得た。そこでは「日本企業は『新規事業』の定義が曖昧である」という指摘があった。新規事業と言っても、どのレベルの新規性を目指すのかを明確に定義する必要がある。新規が自社の既存事業の延長線上のものなのか、まったくの新天地に挑戦するのかによって、必要となる人材や組織のあり方が変わる。まったく新しいビジネスを想定した場合、前述したようなイノベーション人材がパフォーマンスを発揮できる土壌を企業が用意しなければならない。具体的には、「既存の事業の枠組みにとらわれずに鋭い課題意識と、解決したいという強い思いを持っている人材を配置する」、そして「その人材にトライ&エラーをスピーディーに行えるだけの裁量権を与える」ということだ。

② ダイバーシティと“シェア文化”
一人の人材の発想力をイノベーションに転嫁させビジネスとして育てていくためには、さまざまな強みを持った人材が相互に知恵を出し合う場が必要だ。先ほど述べたようにシリコンバレーのエコシステムはこの考えに則っており、それぞれの分野の専門家が強みを発揮することで小さなアイデアを巨大ビジネスに昇華していく。そのためにさまざまな考え方、経験、強みを持った人材の力を引き出すためのマネジメントしていくことが必要なことは言うまでもない。

日本企業のダイバーシティというと性別・年代・国籍といった属性に紐づいてしまっているが、シリコンバレーでは、それぞれがどのような専門性を持っているか、どのような価値観や背景をもっているかといった内面的な要素をダイバーシティとして捉えている。多様な価値観を持ったメンバーを纏めていくことが非常に難しいというのは現地でも共通認識を持っている。そのために、ベンチャー企業を支援する投資家やベンチャー企業を支援するアクセラレーターと呼ばれるプロフェッショナルは、ベンチャーの戦略や企業規模に合わせて、組織マネジメントの支援や助言を行っている。またイノベーションは発想と発想の掛け合わせから生まれるという考えから、個人で持っているアイデアや情報を、IT ツールを活用しながら社員間でシェア(共有)するという文化が根づいている。これは多様な価値観を持ったダイバーシティ組織におけるコミュニケーションの基本姿勢でもあり、マネジメントを円滑にするうえでも役立っている。

公開コラムはこちら

その1:コロナウイルスがシリコンバレーにもたらしたもの|シリコンバレー最新動向 その1
その2:ベイエリアの人材マネジメント|シリコンバレー最新動向 その2
その3:HRテック企業が模索する人事課題解決への道|シリコンバレー最新動向 その3
その4:テクノロジーの進化がEXに与える恩恵|シリコンバレー最新動向 その4
その5:「新事業開発のための人づくり・組織づくり」のヒント|シリコンバレー最新動向 その5(本コラム)

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