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IoT基礎研究で国際協力を重視するドイツ|
インダストリー4.0 最前線ドイツからの報告⑧

第8回 IoT基礎研究で国際協力を重視するドイツ

在独ジャーナリスト 熊谷 徹

最近はドイツでも新聞やテレビがインダストリー4.0について報じることは少ない。一般市民の関心をひく話題ではないからだ。だがメディアが取り上げなくても、政府や企業、研究者、技術者たちはインダストリー4.0やIoTについての取り組みを着々と進めている。
その中でドイツ政府が特に重視しているのが、IoTの基礎技術の開発における国際協力だ。

米独が参照アーキテクチャーについて白書を発表

たとえば去年12月にドイツ政府のIoT推進機関「プラットフォーム・インダストリー4.0(PI4)」と米国のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)は、スマート工場に関する技術の理論的な基盤である「参照アーキテクチャー」に関する白書を発表した。
「Architecture Alignment and Interoperability(アーキテクチャーの整合と相互運用性)」という題名の文書がそれだ。
参照アーキテクチャーとは、工作機械や部品が相互に情報を交換し合うスマート工場の基盤となるITシステムの下部構造だ。機械、情報、ビジネスなどを示すレイヤー(層)からなるサンドイッチの形をしている。スマート工場を機能させるための三次元の地図と呼ぶことができる。

かつてドイツと米国はこの参照アーキテクチャーを別々に開発していた。ドイツは自国のモデルを「インダストリー4.0のための参照アーキテクチャー(RAMI)」と呼ぶ。一方米国のIICは、「IIRA(インダストリアル・インターネット・参照アーキテクチャー)」というモデルを開発してきた。RAMIとIIRAは似た構造を持っていた。
しかし米独が並行して別々に参照アーキテクチャーを開発すると、完成した2つのシステムが相互に交信できなくなる可能性もある。両国が同じモデルを別々に開発するのでは、リソースがむだに使われることにもなりかねない。

「米独のシステムには相互運用性がある」

このためPI4とIICは2016年にスイスで開いた会議で、参照アーキテクチャーの研究・開発で協力し合うことを決めたのだ。両国のエンジニア、科学者たちは約2年間にわたる研究の結果、「RAMIとIIRAは類似点を持っており、相互運用性がある」という結論に達した。
研究チームによると、2つのモデルには違いがある。ドイツのRAMI が製造業のデジタル化のためのモデルであるのに対し、IIRAは製造業に限らず多くの業種を対象とした、より広い応用性を持つモデルとなっている。

科学者たちは「この違いは2つのモデルを相互に補完するものであり、米独がIoTに関する課題を解決する上で助けになる。デジタル化された製造システムを開発する作業の妨げになる物ではない。たとえばIIRAの特色の1つである産業分析は、インダストリー4.0を構築する上で役に立つだろう。一方、RAMIの要素の中には、米国とドイツのシステムの相互運用性に役立つ物も含まれている」と述べ、2つのシステムが両国にとって恩恵をもたらすという結論に達した。

そしてこの報告書は、「PI4とIICは2つのシステムの相互運用性を深めるために、協力を継続する」と述べている。
この白書は、両国の技術開発陣にとって朗報である。米国とドイツは彼らの参照アーキテクチャーが矛盾したり、お互いに排除し合う物ではないことを確認できたからだ。今後米独は、細部に関する検討を始めることによって、両国のIoTシステム間のスムーズな情報交換の実現をめざす。両国はスマート工場に関する国際標準の確立へ向けて重要な一歩を踏み出したということができる。

独政府はIoTにおける国際協力を重視

PI4のヘンニヒ・バンティエン事務局長は私とのインタビューの中で、ドイツが米国との協力を重視していることを強調した。彼は「PI4とIICがそれぞれの参照アーキテクチャーが相違点を持ちながらも、似た論理に基づいていると結論付けたことは重要だ。我々はIICとの協力を深化させつつある。たとえばPI4とIICは過去数年間に共同で製造業のデジタル化やIoTについての啓発ツアーを実施した。我々はサンフランシスコ、トリノ、シンガポールでIoTについての合同イベントを開催し、標準化やデータ保全、テストベッドなどのテーマについて協議した」と述べている。PI4はIoTの実現の上で国際協力が非常に重要だと考えているのだ。

彼とのインタビューの中で印象に残ったのは、バンティエン氏が「インダストリー4.0の中心的なテーマであるデータ保全、標準化、研修、教育、法的枠組みは、まだ競争以前の段階にある(ドイツ語でvorwettbewerblich)」と語った点だ。
彼によると、IoTをめぐっては、各国はまだ本格的な競争状態にはない。つまりこれらのテーマは議論が尽くされた段階ではなく、いわば開発途上状態にあるので、各国企業が競争をせずに互いに情報を交換したり協力したりすることは、カルテル禁止法には触れないということだ。

つまりドイツは「IoTシステムの開発はまだ初期の段階にあるので、データ保全、標準化、研修、教育、法的枠組みといった基礎的な問題については、各国が協力しあって解決する必要がある」と考えているのだ。確かにデジタル化をベースとしたビジネスモデルにとって国境は大きな意味を持たないので、各国がバラバラにIoTシステムを開発しても意味はない。
IoTシステムの開発が競争以前の状態にあるならば、我が国が自国製造業界の利益を守るために日本のシステムに合った基礎技術を提案して、国際標準の一部にすることも可能だ。日本政府と産業界、科学界はIoTをめぐる国際的な議論の中でこれまで以上に声高に発言をすることが求められている。

(続く)

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著者略歴

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

ホームページ :www.tkumagai.de
メールアドレス:Box _ 2@tkumagai.de
フェースブック、ツイッター、ミクシーでも実名で記事を公開中。

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Toru Kumagai

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部に在学中、ドイツ連邦共和国にてAIESEC経済実務研修(Deutsche Bank、ドイツ銀行)、卒業後、日本放送協会(NHK)に入局、国際部、ワシントン支局勤務を経て、1990 同局を退職。ドイツ・ミュンヘン市に移住。ドイツ統一後の変化、欧州の安全保障問題、欧州経済通貨同盟などをテーマとして取材・執筆活動を行う。主な執筆誌「朝日ジャーナル」、「世界」、「中央公論」、「エコノミスト」、「アエラ」、「論座」など。主な著書に「ドイツ病に学べ」、「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ人はなぜ、150日休んでも仕事が回るのか」、「ドイツ人が見たフクシマ」、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」、「欧州分裂クライシス・ポピュリズム革命はどこへ向かうか」。 日経ビジネス・オンラインに「熊谷 徹のヨーロッパ通信」を毎月連載中。その他、週刊ダイヤモンド・週刊エコノミストにもドイツ経済に関する記事を隔月で掲載。 ホームページ:http://www.tkumagai.de
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