IoTプラットフォームの普及はまだこれから|インダストリー4.0 最前線ドイツからの報告⑤ | イノベーション創出のヒント JMA GARAGE
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IoTプラットフォームの普及はまだこれから|
インダストリー4.0 最前線ドイツからの報告⑤

第5回 IoTプラットフォームの普及はまだこれから

在独ジャーナリスト 熊谷 徹

製造業のデジタル化プロジェクト・インダストリー4.0やスマートサービスでは、IoTプラットフォームが決定的に重要な役割を果たす。今年4月にドイツで開かれた世界最大の工業見本市ハノーバー・メッセでもIoTプラットフォームに関する展示が目立った。しかしドイツ企業の間ではプラットフォームの普及が意外に進んでいないことが、あるアンケート調査から明らかになった。

プラットフォーム使用企業は半数以下

ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)は、従業員が100人を超える機械メーカーの取締役など幹部社員553人に対して、IoTプラットフォームの使用状況についてアンケート調査を行い、その結果を6月下旬に公表した。

その結果、「IoTプラットフォームを使っている」と答えた企業の比率は43%にすぎず、半分に満たなかった。回答企業の内27%は他企業がサービスとして提供するプラットフォームを使用し、16%は自社で制作したプラットフォームを使っていた。

また回答企業の18%は「IoTプラットフォームの導入を計画している」と答えたほか、19%が「現在社内で協議中」と回答。回答企業の内、「プラットフォームを導入する気はない」と答えたのは19%だった。
ドイツは、2011年に世界中へ向けてインダストリー4.0宣言を行い、製造業のデジタル化でトップに立つという大見得を切った国。そう考えると、7年経った今も半数以上の企業がまだIoTプラットフォームを使用していないというのは、いささか遅いという気がする。(BITKOMが今年1月に発表したアンケートには、「中規模企業の回答者の54%はデジタル・プラットフォームについて聞いたことがなかった」という結果も記載されている)

データ保全への不安

なぜドイツではプラットフォームの使用が進んでいないのか。BITKOMが今年6月に発表したアンケート結果からは、企業がデータ保全についてまだ不安感を抱いていることが浮かび上がってくる。「プラットフォームを使わない」と答えた企業の内、58%がその理由を「データ保全に不安感が残るから」と説明している。つまり彼らは、プラットフォームに自社の機微な製造ノウハウなどをアップロードした場合に、それがハッカーによって盗み出されたり、コピーされたりすることについて強い懸念を持っているのだ。

またプラットフォームに懐疑的な企業の39%は、コストがかかりすぎることを導入しないことの理由として挙げた。さらに人材やノウハウが不足しているのでプラットフォームを導入できないと答えた企業も多かった。
ただしプラットフォームを導入する予定がないと答えた企業も、その内の97%は「プラットフォームを使う意味はある」と認識していることもわかった。
つまり多くの企業はプラットフォームの重要性を理解しているのだが、リスクや費用がプラットフォームから得られる恩恵に比べて大きすぎると考えているので、導入に踏み入れないでいるのだ。

BITKOMのアヒム・ベルグ会長は「中規模企業の間では、データ保全についての不安感がいまだに強い。これは大手企業も初めの内抱いていた懸念だ。したがって、大企業と中規模企業がデータ保全やプラットフォームを使った経験について意見を交換し、不安感や懐疑心を取り除くことが望ましい」と述べている。

さらにIoTプラットフォームを自前で制作した企業の内41%は、「自社の取引関係を反映させた独自のエコシステムを作りたかったので、自社で制作した」と答えている。またこれらの企業の40%は、「他社にIoTプラットフォームの制作を任せると、自社の取引関係を知られて顧客を奪われる危険がある」と回答している。ここでも機微なデータの漏洩を懸念する企業が多いわけだ。22%の企業は「他社に任せると費用がかかりすぎるので自社で制作した」と答えている他、19%の企業は「外部の企業への依存を避けるために、自前で制作する道を選んだ」と回答している。

BITKOMはプラットフォームの重要性を確信

だがBITKOMのベルグ会長は楽観的な見通しを持っている。「全てのメーカーは、遅かれ早かれIoTプラットフォームが将来のビジネスモデルにとって戦略的に重要な意味を持っていることを悟るだろう。IoTプラットフォームを早くから利用して経験を蓄積する企業は、競争上有利な立場に立つことになる」と予測している。

ドイツ連邦経済省の「デジタル・プラットフォーム白書」によると、米国のプラットフォーム運営企業数は62社で、欧州(27社)を大幅に上回っている。米国では個人情報保護に関する規制が欧州よりも緩い。このためドイツの中規模企業の間には「サーバーが米国にある企業のプラットフォームに、機微なデータを蓄積しても大丈夫だろうか」という懸念がある。その意味で、中規模企業の不安感を減らし、IoTプラットフォームへの関心を高めるためには、欧州にサーバーを置いたプラットフォーム運営会社を増やすことも重要だろう。

特にIoTの核心であるスマートサービスを実現する上で、プラットフォームは不可欠。ドイツの企業数の99%を占める中規模企業がデータ保全をめぐる懸念を克服できるかどうかが、普及のための鍵と言える。

(続く)

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著者略歴

熊谷 徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

ホームページ :www.tkumagai.de
メールアドレス:Box _ 2@tkumagai.de
フェースブック、ツイッター、ミクシーでも実名で記事を公開中。

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Toru Kumagai

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部に在学中、ドイツ連邦共和国にてAIESEC経済実務研修(Deutsche Bank、ドイツ銀行)、卒業後、日本放送協会(NHK)に入局、国際部、ワシントン支局勤務を経て、1990 同局を退職。ドイツ・ミュンヘン市に移住。ドイツ統一後の変化、欧州の安全保障問題、欧州経済通貨同盟などをテーマとして取材・執筆活動を行う。主な執筆誌「朝日ジャーナル」、「世界」、「中央公論」、「エコノミスト」、「アエラ」、「論座」など。主な著書に「ドイツ病に学べ」、「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ人はなぜ、150日休んでも仕事が回るのか」、「ドイツ人が見たフクシマ」、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」、「欧州分裂クライシス・ポピュリズム革命はどこへ向かうか」。 日経ビジネス・オンラインに「熊谷 徹のヨーロッパ通信」を毎月連載中。その他、週刊ダイヤモンド・週刊エコノミストにもドイツ経済に関する記事を隔月で掲載。 ホームページ:http://www.tkumagai.de
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