「Decade thinking -不確実な未来社会を生き抜くためのコンパス-」
【Decade thinking(1/5)】人間中心思考で未来社会を見ることのメリット (i.lab inc.)
このコラムを担当するイノベーション・ラボラトリ株式会社(以下i.lab)は東京大学i.schoolのディレクター陣によって設立されたイノベーション・ファームとして、これまで業界問わず大手企業をクライアントとして商品/サービス/事業のアイデア発想、アイデアを継続的に生み出すための仕組みづくり、研究開発戦略や重点事業開発分野の策定といった新規事業に特化したコンサルティングサービスを提供してきました。
そのような経験の中で、世界中にあるイノベーションに特化した研究機関・民間企業の方法論やi.school独自のメソッドを融合させながら、実際に新規事業企画に有用な「不確実な未来を捉えるためのメソッド」、「未来への対策の立て方」を形式知化してきています。
そこで、i.labが独自に発展させてきた「不確実な未来社会を捉えるためのメソッド」、「未来への対策の立て方」を「Decade thinking」という形でご紹介し、全5回の連載を通じて、読者の方々に、”これからの10年間を生き抜いていくためのコンパス”をご提供していきます。
本コラムでは、今後10年間、未来社会を生き抜いていくための方法論をまとめてDecade thinkingと呼んでいます。それらの方法論は基本的に「人間中心思考」をベースとしています。そこで第1回は「人間中心思考」とは何か、そして、それを用いて未来社会を考えるメリットとはどのようなものか、についてご紹介します。
「人間中心思考」とは
「人間中心思考」とは、「あらゆるモノ・コトを人間の感情・価値観・思考・行動と紐付けながら捉えようとする考え方」です。デザイン思考などで用いられる「Human-centered」の概念と同じで、広告業界などで普及している「生活者発想」などとも近い考え方といえます。i.labでは業務の一環として長年インタビューやフィールド観察を通じた生活者調査を行なっており、新しい技術やトレンド、新規サービスなどの登場で世の中に大きな変化が生じる際には、「社会で暮らす人々にとって」「どのような意味があるのか」考え続けてきました。
具体的にどのようなことをしているのかよくあるケースを「完全自動運転の普及」という事象を例に説明すると以下の通りです。
1) 特定のペルソナ像に共感し、その人の目線で事象の意味合いを考える
例:ファミリー世帯のパパ(都市部に住む4人家族のパパ、40代前半、同世代の奥さんと小学生の子供2人もち、日系IT企業勤務で休日はレンタカーでキャンプに出かけるようなアウトドア好きの性格)が、自動運転という技術が普及した世界観の中で暮らす際に、どんな暮らしをしているのか、自動運転技術でできるようになると嬉しいことは何か、などを当該ペルソナ像に共感しながら考える
2) 特定の事象が起こす、人間の価値観・考え方・行動の不可逆的な変化を捉える
例:完全自動運転が普及することによって「タクシーのように保有ではなくシェアすることがスタンダードになる」「車移動の時間に余暇としての意味合いが生まれる」「物流が自動化される」など、ある事象が発生することによって、人間の価値観・考え方・行動に対し、不可逆的な変化が起こり得るのか、起こる場合はどのような変化か、を考える
なぜ新規事業特化のコンサルティングファームが「人間中心思考」で未来社会を捉えるのか

当社i.labは、元々東京大学i.schoolにおいて、0-1でアイデアを生み出すワークショッププロセスの研究を行なっていたことがきっかけとなり設立されたコンサルティング・ファームです。そのため、i.labの扱う案件は基本的に0-1に関するものになります。(図1参照) 0-1案件の特徴は以下の通りです。
- 新商品や新サービスのアイデアを自ら生み出すために自分たちが事業として解決していきたい生活者の課題感やニーズの探索が必要
- (特に当社は大企業をクライアントとしていることもあり)アイデアが事業化するまで大抵3-10年かかる
つまり、0-1でアイデアから新規事業を生み出していく当社業務の性質上、課題やニーズを生活者の目線で理解すること、および、その課題やニーズが実際に事業の実現する3年-10年先にも生活者にとって課題やニーズであり続けるかどうかを検証することが必要不可欠なのです。
ビジネスにおいて「人間中心思考」で未来社会を捉えることのメリットとは
「不確実な未来のイメージアップ」を行うためのアプローチはいくつかあります。我々が行う「人間中心思考」でのアプローチの他、技術ロードマップが代表例ですが社会に大きな影響を与えるであろう技術を起点に未来を捉えようとする「テクノロジー中心思考」でのアプローチ、統計データなどに現れる過去の傾向から未来を推測する「データ中心思考」のアプローチなどです。
人間中心思考でのアプローチの最大の特徴は、その名の通り、個別の技術やデータではなく、「人間の価値観・考え方・行動」を切り口としてものごとを捉えていくという点にあると言えるでしょう。
それが生み出すビジネス上のメリットは大きく以下のようになります。
- 課題やニーズの持続可能性がわかる
社会やマーケットを構成しているのは一人一人の人間であり、彼らが変容すれば、事業環境も変化します。特に自社事業が解決している/しようとしている課題やニーズの変化は、クリティカルに業績に影響を与えるといっても過言ではないでしょう。前項でも触れましたが、現在から、例えば、10年後の未来を「人間の価値観・考え方・行動」という切り口で見ておくと、自社が今重視している人々の課題やニーズが今後も世の人々にとって重要なのか、どんな事象が起こると変化しうるのか検討することができます。 - 未来に向けたプロダクト・サービスのアイデアやそのデザインを考えやすい
「人がどのような価値観を持ち、何を考え、どんな行動をするのか」を常に意識しながら未来を考えると、未来において、人々がどのように暮らしているのか生活シーンを具体的に考えられます。その結果として、「この生活シーンにおいて、ある課題やニーズを解決するためのプロダクト/サービスが必要だとしたら、きっとこんなものが必要で、こんな感じのデザインがいいはずだ」というところまで考えられます。 - 事業活動を行っていく上での共通の世界観を構築できる
トヨタのWoven cityのコンセプト図を想像していただければわかりやすいかもしれませんが、未来の姿を考える際に、未来における人の暮らし方やライフスタイルまで具体的に想像し、絵やイラストなどわかりやすい形で表現しておくと、自社がどんな世界観のなかで事業を行おうとしているのか従業員や顧客、パートナー企業などあらゆるステークホルダーと共有することができます。それがあることで、中期経営計画、事業計画など様々な戦略や計画の意図が伝わりやすくなったり、逆にそういう世界観を踏まえて全社で一貫した戦略や計画を立てたりすることができるようになったりします。
ここまで簡単に人間中心思考とはどのようなものか、それを用いて未来を捉えるビジネス上のメリットとしてどのようなものがあるのか、ご説明させていただきました。抽象的、概念的な話が多くわかりにくい部分もあったかと思います。第2回以降では、i.labの資料などを参考としながら、「未来を捉える際に行う具体的なタスク」をご紹介させていただく予定です。
引き続き、お楽しみください。

Toshihiro Tsukahara

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